今日嫌なことあった

前を行く中年女のブーツの踵の部分がアスファルトを叩く音が邪魔だ。青信号になったと同時にどこからともなく湧いてでた自転車や人間たちの群れが一斉に路地に吸い込まれてゆく。私はそれらを先に行かせた。その群れの中のひとりが紫の合成繊維の光沢のあるコートを着た中年女だ。
私は自分の眼差しで彼女を貫いた。そして数メートルの感覚を開けて彼女の後を歩く。彼女の後ろを歩きたいわけではない。むしろ早くどこかへ去って欲しい。しかし私の帰路と女の行く道がたまたま同じなのだから仕様がない。
「ストーカーってどういう条件で成立する犯罪なのですか?」
音声が浮遊する。そして一定間隔を開けて女の後ろをついてゆく私はなんだか自分が犯罪者のように思えてきた。そして彼女の頭を再び眼差しで射た。曲がり角を曲がってすぐにちらと女はこちらの方を振り返った。わたしは自分が常軌を逸した眼差しを発していると思った。
「殺してやるからな」
再びの曲がり角で女は足を止めた。私はビクッとした。女は振り返った。私も歩みを止めた。そして相手が私のことを不審に思っているだろうと思った。私は狼狽した。私は少し混乱した。ある一瞬女と私の間に殺気が漂った。そして女は後ろ向きに、私の後ろの方へ引き返していった。私は道の端にある電柱と民家の間を通った。女は私を避けるように道の端を通ってすれ違った。それも私と女は電柱を隔ててすれ違った。女は崩れた表情をしていた。
頭のなかでは物騒な妄想が広がって、それが女と私の間に妙な雰囲気を作った。
頭のなかでの言葉は彼女に伝わった。口に出さなくても伝わった。彼女は怖がっただろう。私も怖かった。
また確認、確認。

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